マンション管理組合と自治会(町内会を含みます)の問題は、私がマンション管理に関するコンサルタント業務を始めた頃(平成272015)年)も話題となっていましたが、私が思っている以上に根深いもののようです。

2015年当時、国土交通省のマンション標準管理規約の見直しの検討が国の検討会で行われていましたが、この検討会は第1回が平成242012)年1月に開催され、第9回までは継続して開かれました。しかし、その後、約2年半中断し、平成272015)年に再開、第11回を同年3月に開催して終了しました。そしてその検討報告書を基に、平成282016)年にマンション標準管理規約の抜本的な改正が行われた、という経緯があります。

この時の改正は標準管理規約の内容の多岐に亘るものでしたが、その中で特に話題となったのが、いわゆる「コミュニティ条項の削除」です。

これは、それまで管理組合業務として位置づけられていた、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」という業務、及びそれに充てる費用の根拠条文が標準管理規約から削除されたことを指します。

ここからは私の個人的な理解と見解になりますが、この「コミュニティ条項の削除」は、上記検討会で、『全国の管理組合において管理組合と自治会(町内会)を混同する「混乱」が見られ、訴訟にまで発展している。そのためこのコミュニティに関する条文は削除すべき』との議論がされたため、と私は理解しています。つまり、コミュニティ条項があるから、管理組合の資金が、本来支出すべきではない自治会活動に使われてしまっている、ということです。

ではここで、少し長くはなりますが、マンション管理組合と自治会(町内会)の違いを、国土交通省の資料を参考に整理してみましょう。

まずマンション管理組合は、区分所有法3条を根拠に、マンションの住戸(専有部分)を所有したと同時に加入が強制される団体であるのに対し、自治会(町内会)は存立の根拠法はなく、区域に住所を有する者で加入を希望する者によって構成される任意加入の団体である、ということです。

これだけ読めば全く異なる性格の団体だと理解できそうなのですが、検討会での現状認識(「混乱している」)のように、実態はそうは簡単ではなさそうです。私がこれまで関わった管理組合でも、意外に管理組合活動と自治会活動を混同している場合がある、ということが分かってきました。

混同される原因としては、特にファミリータイプのマンションにおいて、居住者=区分所有者の比率が高いことがあると思います。また、起こりうる問題は、管理費や修繕積立金の支払いが区分所有者の義務であることから、自治会費も強制徴収するということがあったり、会計区分が明確になっておらず本来管理組合でなく自治会として支出すべき費用を管理組合から支出していたりすることです。

近年は自治会の加入率は年々減少しており、会の運営も困難になっているような状況もあるでしょう。ただ、それはマンションに限ったことではなく戸建て住宅地でも同じことです。マンションには管理組合という団体が当然に組織されるので、なおさら「混同」してしまう素地があるように思えます。

また、管理組合でも役員のなり手不足が問題とされている中で、管理組合も、自治会も、と複数の団体活動を維持することも大きな負担になり、集約できないか、と考えることもありそうです。無理はないことかもしれません。

しかし、管理組合と自治会を混同した状態を続けることは不適切であることには間違いなく、それぞれの団体がそれぞれの役割でお互い協力して活動していくことが求められると私は考えています。ただし、管理組合でも自治会でもそれらの運営においては組合員・会員のコミュニティの醸成が重要であることは言うまでもありません。前出の「コミュニティ条項の削除」は「コミュニティ」という用語の使用を避け他の表現にしただけであり、国土交通省も管理組合におけるコミュニティ形成の重要性は全く否定していません。

管理組合と自治会が「混同」されている状況の解消には、関係者の意識を変えることが必要なため困難が伴うとは思いますが、管理組合運営の適正化の社会的ニーズが高まってきている昨今では重要な検討課題であると思っています。

投稿者プロフィール

木村誠司
木村誠司
28年間、地方公務員として、建築、都市計画、住宅、開発行政に従事。
自らが居住していたマンションで大規模修繕工事、管理委託契約見直しに尽力。
平成27年6月独立開業。マンション管理士・一級建築士