杭の支持地盤到達不良による傾斜マンションの問題が大きな波紋を呼んでいます。このような事件が起きたことは、建築物、マンションに関わる人間として、本当に残念です。また、私の住む横浜市都筑区の物件であったことも驚きでした。被害に合われた区分所有者等の方々に心よりお見舞い申し上げます。

私は、この問題は根本的にはマンション問題ではなく、建築物の用途に拠らない建設全般の問題だと思っています。マンションは青田売り(建設完了前の販売)をするため、特に工期が厳しいとの意見がありますが、個人的には、この問題はこのマンションが建設された平成19年の建築基準法規制強化の駆け込み建設の影響の方が大きいのではないか、と推測しています。

平成19年の建築基準法改正は、平成17年に発覚した構造計算書偽装事件の対策として、国が建築確認(着工前の基準適合審査)を大幅に強化したものです。いわゆる「構造適判」(構造計算適合性判定制度)と呼ばれる、構造審査のダブルチェック制度が創設されたのがこの時です。この規制強化により、以後数ヶ月、建設着工が激減するという社会問題が起きました。

私も建築関係の分野で仕事をしてきた関係上、広い意味で当時の構造計算書偽装事件の影響を受けた人間ですが、今日に至るまで亡霊のように、あの事件が尾を引いていると思うと、驚きを禁じえません。

ただ、今回の事件が構造計算書偽装事件と異なるのは、設計段階の構造計算書の偽装ではなく、施工段階の施工結果報告が杜撰だったことです。設計図書に比べ、施工関係図書は、管理組合に引き継がれていないことが多いでしょう。(ほとんど引き継がれていないかもしれません)このため、各マンション管理組合の皆様が調べるとしたら、まずは施工業者を確認し、施工結果報告書等の存在を施工会社等に問い合わせることから始めることになるのではないかと思います。

構造計算書偽装事件のときも、区分所有者の皆様は、自分のマンションは大丈夫なのかとご心配された方が多かったと思います。今回も同様に、ご心配されている方々も多いと思われますが、そんな時は、行政や各関係団体でも相談会や相談窓口設置を行っておりホームページでも案内をしていますので、それらを上手に活用し安心につなげていただけたらと思います。

投稿者プロフィール

木村誠司
木村誠司
28年間、地方公務員として、建築、都市計画、住宅、開発行政に従事。
自らが居住していたマンションで大規模修繕工事、管理委託契約見直しに尽力。
平成27年6月独立開業。マンション管理士・一級建築士